業務・経営支援アプリにおけるオンボーディングのグロースハック 〜オンボーディング体験設計の4STEP〜
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業務・経営支援アプリにおけるオンボーディングのグロースハック 〜オンボーディング体験設計の4STEP〜

はじめに

このnoteを読めばわかること

 業務・経営支援アプリのオンボーディングの難しさや改善手順について書きました。具体的な手順は記事中盤の『オンボーディングの体験設計を行う4STEP』から始まります。

キーワード
・業務・経営支援アプリ
・オンボーディング
・ユーザーリサーチ
・データ分析
・ストーリーマッピング
・体験設計
・グロースハック

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文中に使用されている画像のまとめ


自己紹介

 この春リクルート入社2年目になりました、上妻(こうづま)と言います。3カ月の新人研修を経て、2020年7月から「Airレジ」のプロダクトデザイングループ、10月からSaaSデザインマネジメントグループに所属しています。学生時代は、認知心理学を勉強し、データ分析のアルバイトをしていました。課題解決の手法を考えることが好きで、現在は、一般的なプロジェクトマネージャーの業務に、データアナリティクスやUXリサーチを取り入れることに挑戦しています。

記事執筆にあたって

 今回私が「Airレジ」という業務・経営支援アプリのオンボーディング体験の改善案件の案件オーナーとして約9カ月間奮闘する中で、多くの障壁や学びがあったため、この場を借りてご紹介します。プロダクトマネージャーやディレクターと言われる職種の要件に対しては至極当然なことを記述しているかもしれませんが、リクルートに入社した1年目社員・若手社員がこのような業務を担当しているのかと、学生の皆さまや転職を検討されている皆さまの糧となれれば嬉しいです。

業務・経営支援アプリオンボーディングの改善とは

オンボーディングとは

 オンボーディング(英語表記:on-boarding)とは、「船や飛行機に乗っている」という意味の「on-board」から派生した言葉です。 本来は、船や飛行機に新しく乗り込んできたクルーや乗客に対して必要なサポートを行い、慣れてもらうプロセスのことです。一般的に、サービスやプロダクト、ソフトウェアにおけるオンボーディングは、それらの操作に慣れ、継続的に利用していただく状態を促すコンテンツ・サポートのことを指します。今回は、業務・経営支援アプリのお試し利用としてのオンボーディングも含むため、プロダクトマーケティングの方向に意味を拡張した場合のオンボーディングとしてこの言葉を使わせていただきます。

オンボーディングを改善するチーム

 オンボーディング体験を改善する場合、通常の業務支援アプリのプロダクトや機能の開発手順とは異なった手順・チームが実施する場合が多いです。例えば、私の所属している「Airレジ」のプロダクト開発チームは、通常の機能の開発案件を実施する場合、主にデザイン・ディレクションチーム、開発チーム、ユーザーサポートチームが協働します。一方、オンボーディングを改善するコンテンツの開発案件は、マーケティングチームも協力関係になりますし、場合によってはユーザーサクセスや、セールスの組織も関わっているところが多いのではないかと思います。

業務・経営支援アプリのオンボーディングを改善することの重要性

 業務・経営支援アプリにおいてオンボーディングの改善は重要です。業務・経営支援アプリは、カスタマー向けアプリと比べて体験要求が高いことが多いため体験設計難易度が上がり、操作難易度が高い場合が多いです。業務・経営支援アプリにおけるオンボーディングは、操作難易度の高いアプリを初めて触るユーザーさまに、実際に業務で使っていただくようになるまでをサポートする必要があります。しかし、「Airレジ」のようにSMB(Small and Medium Business)と呼ばれる中小企業の皆さまに多くご利用いただくことを目指すプロダクトは、「ひとつひとつの企業から高い単価で売り上げを上げるのではなく、多くの企業から低い単価で売り上げを上げる」という戦略での成長を目指しているため、電話窓口や訪問営業とは異なるコストのかからないソリューションでオンボーディングサポートの質を改善する必要があります。また、オンボーディングは、ユーザーがアプリへの第一印象を決める接点であり今後のアプリ継続利用に大きなインパクトを与える非常に重要な場面です。


業務・経営支援アプリオンボーディングの難しさと解決策について

 業務・経営支援アプリにおいてオンボーディングの改善は重要ですが、実際に私が案件を担当する中で、難易度が高いと感じた3つの障壁がありました。難易度の高いと感じた理由と、それを乗り換えるために必要だった解決策の一部を順に紹介していきます!


体験設計の難しさ

障壁①:導入意思決定コストが高い

 業務・経営支援アプリオンボーディングの障壁として、第一に挙げられるのは、対面や訪問での導入サポートがないため、「導入意思決定のコストが高いこと」です。導入意思決定のコストが高いことは、1CV(コンバージョン)を獲得するハードルの高さにつながるため、文字通り難易度の高い課題ということです。導入意思決定のコストとして、金銭コストと工数コストがあり、そのどちらも高いのです。そしてこのコストの高さはユーザにとっては大きなリスクとなり得るため、ユーザーは導入意思決定を下す事にかなり慎重になり、業務・経営支援アプリのオンボーディングの難しさにつながります。詳細は「Airレジ」の事例を使って具体的にご紹介していきます。


金銭コスト:初期費用がかかる

「Airレジ」の場合、ソフトウェアの利用自体は無料ですが、iPadやキャッシュドロアー、レシートプリンターなどの機材を購入する場合は費用が発生します。iPadなどを含めた「Airレジ」 スターターパックは約9万円です。一つの業務支援機材やソフトウェアを導入すると考えるとかなり安価だと思いますが、個人経営のお店や家族経営の中小企業などの小さなお店のクライアントにとっては、簡単に無視することのできないコストです。

工数コスト:オペレーションに影響が出る

 店舗を運営する為に必要な業務フローを「Airレジ」で代替する為、オペレーションを変更する必要があります。単純なものだと、「会計を今まで電卓でやっていたものをアプリに変更する」などですが、「税理士への提出書類はどうなるのか確認する」、「アルバイトスタッフに操作方法を覚えてもらう」など、業務・経営支援アプリを導入する前後で業務内容が一新します。もちろん、業務・経営支援アプリなので、導入によって業務遂行が便利に、楽に、簡単になる事は自信を持った製品づくりをしていますが、工数面での導入コストは無視できません。

障壁②:体験のパターンが複雑である

 二つ目の障壁として、「体験パターンが複雑であること」があげられます。体験パターンとは、業務・経営支援アプリを通した体験のパターンを指します。SMB向けの業務・経営支援アプリは、誰でも簡単に、便利に利用できる必要があるため、対象とするユーザーの業種業態、老若男女など、属性は多様です。また、全ての機能を完璧に使わずとも、自分の業務に必要な機能だけ使えるような設計になっているため(他の多くの業務・経営支援アプリにも同様の特徴があると思います)ユースケースの組み合わせも複雑です。こちらも、詳細は「Airレジ」の事例を使って具体的にご紹介していきます。

ユーザーの多様性

 「Airレジ」は、飲食店で利用されるPOSレジアプリというイメージが強いようですが、アパレルなどの小売業や美容院などのサービス業、薬局や整骨院などの医療機関でも使用されているレジアプリです。また、情報リテラシーの高い敏腕経営者が使用しているケースもありますし、海外出身のアルバイトスタッフしかいないお店や、地方で定年後の夫婦が営む家電屋で利用されている場合などと、古今東西・老若男女にご使用いただいています。さらに、一つの店舗に絞ってみても、店舗のアルバイトスタッフやオーナー、税理士、店長、オーナーの家族など、ひとえに業務・経営支援アプリと言ってもさまざまな方が利用する可能性があります。


ユーザーのユースケースの複雑性

 ユースケースに至ってはさらに複雑です。「Airレジ」には、会計操作以外にも、売上分析・顧客管理・在庫管理・商品管理・レジ締めなどなど実店舗を持つ店舗が行う業務を幅広く支援することができるプロダクトです。そして、そのすべてを利用しなくとも「Airレジ」をお使いいただく事はできます。そのため、業種業態・商材・会計のタイミングなど、必要な業務に合わせて、使う機能と使わない機能を選ぶことができます。そのため、求めるユースケースのパターンの組み合わせは無数にあります。さらに、各機能ごとにも「ライトに使う」から「リッチに使う」といった濃淡があり、ユーザーのユースケースを求める作業は非常に複雑性があります。


オンボーディングの体験設計を行う4STEP

 「導入意思決定コストの高さ」、「体験パターンの複雑さ」が、業務・経営支援アプリの体験設計難易度を上げている大きな2つの理由であり、同時にユーザーに良い体験を提供する為に乗り越えなければいけない障壁です。これからは、これらの障壁を乗り越えるべく業務・経営支援アプリのオンボーディングを改善するために行ったアクションを4つのSTEPで記述します。

STEP1: ユーザーリサーチ〜定性定量から情報を収集する〜

 比較的効率の良いと手法として提案したいのは、①ヒアリング対象のユーザーをスクリーニングし、②ユーザーヒアリングを行ない、ユーザー属性の解像度が上がったわかってきた要素でセグメントを作り、③仮説検証の定量分析を行うというユーザーリサーチです。まずヒアリング対象のユーザーの条件を設計し、スクリーニングします。ある程度恣意的なユーザーを集めることになってしまう為注意が必要ですが、例えば、オンボーディングだったら「3カ月以内にアカウントを作成したユーザー」で条件を持つと、記憶が新しいため意見が伺えそうとか、「過去にヘルプデスクに問い合わせ歴がある」だと、積極的に意見を発言してくれそう、などある程度のスクリーニングを行なってからヒアリングを実施すると、ヒアリングの効率が上がります。

 ユーザーヒアリングは、文化人類学でよく使われるKJ法を使ってまとめるインタビューとフィールドワークのエッセンスを応用します(妥当性と信頼性を高く担保しようとすると、業務推進が難しくなってしまうので、まずはライトに取り組んでいます)。KJ法は、グルーピングに特化した手法でなので、セグメント作りにそのまま応用できるため、後続の定量分析との相性が良いです。そして、フィールドワークはインタビューで言語化されないような観点を拾いにいけるためどちらも実施できるとバランスが良いです。実施するユーザーヒアリングの量を具体的な目安としてあげるとすれば、マストでインタビューを20件、フィールドワークを3件が、最低限のユーザーヒアリングの質担保に必要だと考えます。
 定性調査については、こちらの記事で、当社の関口が詳しく紹介してているのでご一読ください。

 ユーザーヒアリングにてセグメント化されたユーザーへの仮説が正しいのか仮説検証型の定量分析を行なっていきます。仮説が明確になってから答え合わせにデータを使います。よく使う分析手法は、簡単ですが、セグメント別のユーザーの行動数に関する仮説は「ピボット分析」、ユーザーの分布に関する仮説の検証は「散布図」、定着率や継続率など時系列のある仮説は「コホート分析」です。この3つの分析を使い分けて仮説の検証を行っていきました。
 同様に、定量分析については、こちらの記事で、当社社員の植田が詳しく紹介しており、大変参考になりました。


 「Airレジ」のオンボーディングはこれまでの調査から、「商品登録」と「アクティブ」に何かしらの因果関係があることがわかっていました。定量と定性の両方からユーザーの解像度をあげ、それをベースにチームでの議論を続けた結果「ユーザー自身が設定した商品で会計作業をする」体験が重要であるのでは?と言語化が整理されていきました。


STEP2: ストーリーマッピング~オンボーディング全体を通しての体験の抽象度の高い最終ゴールを設定する~

 ユーザーに対する解像度が上がったところで、ストーリーマッピングを行います。オンボーディング全体を通してユーザーに成し遂げて欲しい体験をユーセージストーリーというフレームを使って表現します。「ストーリー」の種類は、ドナ・リシャウの著書「ストーリーマッピングをはじめよう」を参照しています。

 この本では3つのストーリーが紹介されています。

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 「Airレジ」のオンボーディングは、アプリとアプリ外の体験を回遊しながらお試し利用をしながら、最も難易度の高い「導入意思決定を下す」というタイミングがあります。その後初期設定や現場での適応を経て、オンボーディングの完了というエンディングを迎える為、価値を体験してもらう「ユーセージストーリー」のフレームが使いやすいかと思います。「Airレジ」のオンボーディングはこれまでのヒアリングや定量調査の結果から、「クライアント自身が設定した商品で会計作業をする」体験が重要であるという仮説がありました。そこで、この体験が、クライマックスにあたるものだと設定しました。

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 この「クライマックス」を設定すると、オンボーディングで成し遂げたい体験が設定できました。シンプルではなくなりますが、ここでさらに、施策の体験設計のフレームとして、Stephen Wendel著書の「行動を変えるデザインー心理学と行動経済学をプロダクトデザインに活用するー」から、「CREATEファネル」を併用します。

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「行動を変えるデザイン」翻訳チームのnoteより画像を引用

 二つの思考フレームを使いファネルをややこしくする理由として、「ユーセージストーリー」は「何」を伝えると効果的なのかというフレームであるのに対して、「CREATEファネル」は、「どのように」伝えると効果的か、に特化したフレームであるため、施策の質を高めることができます。「CREATEファネル」における最後のファネルである「タイミング」の突破を、「ユーセージストーリー」の「クライマックス」に位置付けます。「Airレジ」の場合、それはレシートプリンターなどの機器購入であると見立てて設定しました。体験設計の抽象的な目標は用意できたことにより、「何を(コンテンツ)」「どのように(コミュニケーション)」という二つの軸から、体験をマッピングする環境が整います。

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STEP3: 具体的な体験をネスト表現する~サービス全体、主要機能の全体体験、単体機能の体験ごとに分類する~

 業務・経営支援アプリのオンボーディングのストーリーの抽象的なゴールが明確になったので、アプリでの具体的な体験に落とし込みます。そのまま具体的な機能の体験を当てはめても良いのですが、複雑な場合が多いので、体験の粒度を三つの階層で表現すると非常にわかりやすいです。例えば、「サービス全体」「主要機能の体験」「単体機能の体験」という3階層を作成しました。「CREATEファネル」と「ユーセージストーリ」で作った抽象的なゴールに対して、3階層の粒度で分けた具体的な体験を設定します。このようにネストさせることで複雑な体験でも、具体的かつ「MECE」に整理でき、オンボーディングの「to-be」をより確度高く検討できます。

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STEP4: 仮説マッピング~案件化するにあたって、設定したゴールを達成するコンテンツをリストアップする~

 to-beに対して、as-isをマッピング(as-is体験が全くない場合もありますが)し、その差分を埋めるために必要なコンテンツの仮説をリストアップします。このように、成し遂げたい体験の全体像を手堅く決めてから課題仮説を示すと、関係者にも今後の改修の方向性を示すことができ、案件の推進にも大きくプラスに働きます。任意の方法で優先度を決め施策化し、検証しながらプロダクトに反映させてきます。検証中に、仮説通りの結果が得られなかった場合は、STEP1〜STEP3で作り上げたフレームのどこが仮説通りではなかったのか明確にわかるため、振り返りも有益に行い、次の施策に生かすことができます。詳細の開示を省きますが、このマップを使って関係者と議論をすると、目線が揃い案件推進にポジティブに働いたり、ナレッジを共有しやすくなったりします。実際に使用したものを簡略表現したものをこちらには添付しております。

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最後に

 今回は、体験設計が必要とされる業務・経営支援アプリのオンボーディングをグロースハックして改善していく一つの流れを紹介しました。最近は、非IT業界においても業務・経営支援アプリ・ソフトウェアの普及は加速しているため、今後はセールスやカスタマーサポートの力を借りながらも、テックタッチで難しいことをユーザーに理解していただく世界が作られていくと私は考えています。

 その際、実際には魅力的なプロダクトの第一印象が、「難しい」「よくわからない」ものになってしまい、手にとってもらえないことは、ユーザーにとっても開発者である私たちにとっても非常に不幸なことです。難しくてめんどくさい、且つ複雑で億劫な作業を、シンプルにカンタンにスマートに使いこなすことができるにはどのようにプロダクトを設計する必要があるのか、この課題の解決に、業務・経営支援アプリ作りに関わるデザイナー兼プロジェクトマネージャーとしてとても強い使命感を持っています。そして、このブログをお読みいただいている皆さまは、広い意味では、社会に対して新しい体験を提供する仲間だと思っておりますので、ぜひ一緒に答えを探しに行けると嬉しいです!

 最後になりましたが、社会的にも意味のある上、難易度の高いUX課題と向き合うことができるこの環境で、新卒1年間を過ごせたことはとても刺激的で私の人生にとっても大きな意味のあるものでした。日頃お世話になってる方々に感謝の気持ちを述べつつ、その体験を記したこの記事が、新卒や第二新卒、中途採用での入社を検討されている皆さまの情報源にでもなれれば幸いです。





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ありがとうございます!